しばらく前から、寝る前に少しずつ読んでいた本がある。 派手な筋立てではなく、登場人物が町を歩き、誰かと言葉を交わし、また帰っていく。 それだけの話なのに、どうしてか頁を閉じるたびに、こちらの呼吸も少し整っていた。

線を引いた箇所をあとで読み返すと、案外、何でもない一文だったりする。 けれど、その一文に出会えた夜のことは、たしかに覚えている。

本の良さは、こういう静かなところにあるのかもしれない。